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医療過誤NEWS-コロナで看護崩壊…院内感染リスクと長時間労働の「深刻すぎる現実」

コロナで看護崩壊…院内感染リスクと長時間労働の「深刻すぎる現実」

全国の看護師の心がざわついた

 

「看護師は人手が足りず、少し体調が悪いくらいでは休めない。これは氷山の一角ではないか」

 

大阪市にある「なみはやリハビリテーション病院」で、新型コロナウイルスに感染した看護師2人が、感染していると知りながら上司から勤務を命じられ、実際に働いていたというニュースを受け、全国各地の看護師の心はざわついた。近畿地方の公的病院で働く看護師の藤田牧子さん(仮名、51歳)もその一人だ。

 

なみはや病院では4月15日に職員1人がコロナに感染していたことが分かった。その後に院内で大規模感染が起こっていることも判明し、4月21日までの間に総陽性者数が医療従事者と患者を合わせ118人に上ったという(同病院のホームページより)。

 

各報道によれば、感染力の強いコロナにかかったと知りながら病院が看護師に出勤を命じたとされている。藤田さんは循環器内科病棟で勤務するが、コロナには無症状感染もあるため他人事ではない。

 

「ちょっと寝ていれば治るような風邪なら休むな」という上司からの圧力もあり、藤田さんも日頃から37℃台の熱であれば、出勤する。同僚の看護師の間でも「インフルエンザにかかったときに、(1日3回飲む)解熱剤を1日4回飲んで熱を下げて出勤した」といった例は、いくらでもある。

 

看護師を中心とした組合員17万7000人からなる日本医療労働組合連合会(以下、日本医労連)の「看護職員の労働実態調査」(2017年度)によれば、看護師の約7割が慢性疲労状態で勤務しており、約5割が鎮痛剤を常用。なんらかの薬をよく飲んでいる看護師が7割強もいる。

 

最近の症状として「全身だるい」(60.2%)、「腰痛」(50.6%)、「目がつかれる」(45.8%)、「いつもねむい」(44.2%)を訴え、年々、精神安定剤と睡眠導入剤の常用者が増えるなかで、看護師はコロナとも闘っている。

 

いつ感染してもおかしくない

 

4月下旬に入ると藤田さんの病院は自治体からの要請を受けて急きょ、“コロナベッド”を4床作った。現在、2人のコロナ患者が入院しているという。

 

看護師長は、高性能な「N95マスク」の在庫20枚を全てコロナ病棟に回している状況。他の一般病棟では、3日に1枚だけサージカルマスクを院内で買うことができるが足りず、洗って使っている。

 

医療用ガウンが底をついたため、救急外来の看護師は雨がっぱを着て患者の対応に当たっている。その雨がっぱも、1日8時間使ったら表面を消毒して使い回している。藤田さんは「これではいつ看護師が感染し、院内感染が起こってもおかしくない状況だ」と戦々恐々としている。

 

全国で唯一の医療の産別労組である日本医労連には全国各地から、医療物資の不足や院内感染の不安の声が寄せられている。森田しのぶ中央執行委員長は、こう話す。

 

「2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や2012年の中東呼吸器症候群(MERS)を教訓にすれば、危機管理としてマスクや防護服、検査キットなどの医療物資を海外ばかりに頼らず国内生産にシフトすべきだった。しかし、日本はそれをしなかったため医療物資が不足し、現場のストレスは大きい。

 

医療従事者が治療や看護に集中するためにも、せめてそれら医療物資は国が用意するべきだ。そして、コロナは無症状感染者もいる。院内感染を予防するためにもPCR検査は必要不可欠。一刻も早く検査体制を整えなければ現場はもたない」

 

長時間過密労働になる?

 

看護師を襲う心配はコロナの感染リスクだけではない。見えないウイルスとともに、2交代夜勤まで忍び寄っている。藤田さんの病院がコロナ病床を作る際、病院側が看護師に2交代勤務を提案され、コロナを機に長時間過密労働が強いられそうなのだ。

 

24時間365日患者を看る病棟の看護師は、シフトで勤務し、病院によって夜勤が約8時間の3交代か、約16時間の2交代かに分かれる。

 

3交代だと、おおむね「日勤」(午前8時〜午後4時半)、「準夜勤」(午後4時〜午前0時半)、「深夜勤」(午前0時〜同8時半)のシフトが組まれる。一方の2交代の夜勤は、3交代の「準夜勤」と「深夜勤」をセットで行う形の午後4時頃から翌朝8時までの16時間夜勤が組まれることが多い。

 

藤田さんの病院は、職場からの強い要望で1回当たりの夜勤時間が短い3交代が堅持されてきたが、病院側は「コロナの患者に接触する看護師を少なくする」ことを理由に2交代に変更すると言い始めたのだ。看護現場にとっては「コロナに乗じて人件費を削減したいだけ」としか受け取れなかった。

 

2交代では準夜勤の残業分を吸収でき、割増賃金を払わずに済むことや、0時前後の通勤にタクシー代などが不要になることなどから、経営側は経費削減のため2交代を導入する傾向があるからだ。

 

夜勤には、乳がんや前立腺がんにかかるリスクが高まることや、疲労で酩酊状態の作業効率に陥ることが知られている。

 

日本看護協会の「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」でも、「昼間の8時間勤務より夜間の8時間勤務のほうが事故(医療事故に限らず自身のけがも含む)を起こす可能性が高く、さらに同じ夜勤でも8時間勤務より12時間夜勤のほうが事故を起こす確率が高いという結果が出ている」として、「勤務の拘束時間は仮眠や休憩時間も含み13時間以内を基準」とするよう求めているが、看護師にとっても患者にとっても有害な2交代は増えている。

 

すでに「看護崩壊」している

 

日本医労連の「夜勤実態調査」から、その有害な夜勤の長時間化が分かる。同調査によれば、2交代の病棟の割合は2005年の8.5%から2019年には39.3%まで上昇している。さらに、2交代で1回当たりの夜勤の勤務時間が16時間以上の割合は2019年で54.4%と過半数を占める。

 

そして、労使協定や「看護師等の人材確保の促進に関する法律(看護師確保法)」のガイドラインで3交代夜勤は月8回以内(2交代なら月4回以内)とされているが、過酷な夜勤は減らない。

 

日本医労連の調査から、2交代の夜勤回数の平均は2019年で4.09回となっている。2003年に3.78回と底をついたが2010年以降、4回を超え続けており、約1割が5.5回以上という夜勤回数になっている。

 

夜勤は増えるが、夜勤で休憩や仮眠が「きちんと取れている」は2割しかおらず、「あまり取れていない」が2割前後、「まったく取れていない」が数%というのが現状だ。

 

人手不足にくわえ長時間夜勤のなか、日本医労連の調査では、看護師の約5割が「十分な看護ができていない」と答え、約7割が「仕事を辞めたい」と答えている。

 

コロナで医療崩壊が危険視されているが、そもそもコロナ以前の問題で既に看護は崩壊しているのだ。

 

これは政治の結果だ

 

早くからコロナの感染が拡大していた北海道でも、2交代夜勤の病院でコロナ患者を引き受けているケースがあり、北海道医療労働組合連合会(北海道医労連)によれば「国立病院などの感染症指定病院よりも労働条件の良くない民間病院もコロナ感染者の受け入れが始まっており、看護師は一層、疲弊していく」という危機感が増しているという。

 

北海道医療労働組合連合会(北海道医労連)の鈴木緑執行委員長は、白血病などの患者を看る血液内科病棟で勤務した経験があり、コロナを機に2交代夜勤の導入が加速することを、強く懸念する。

 

「白血病の患者を無菌室(クリーンルーム)で治療するときは、看護師も防護して出入りする。2交代の夜勤では防護服を着たまま夕方4時頃から翌朝9時頃まで16時間もの間、コロナに感染した患者を看ることになる。夜勤中に仮眠をとらなければならないが、実際に看護師が仮眠に入れば、急変しがちな患者のナースコールに応えられなくなってしまう可能性が出る。結果、仮眠もとらずに16時間連続して緊張した勤務に当たることになり看護師は疲弊する。呼吸苦があり、命に関わる感染症を看るのに2交代夜勤は適さない」

 

看護師の7割が辞めたいという状況に追い込まれながら、国は抜本的な看護師不足の対策を打ってこなかった。前述の北海道医労連の鈴木委員長をはじめ、多くの看護師が「私たちの声に耳を傾けてこなかった政治の結果だ」と憤る。

 

筆者が『看護崩壊』(アスキー新書)で看護師の労働問題をまとめた2011年、次に『ルポ 看護の質』(岩波新書)を2016年に上梓し看護労働の改善を求めたが、看護師を取り巻く環境は悪化するばかりだ。コロナで完全に看護が崩壊すれば、犠牲者は増えていく。

 

国会では4月30日に2020年度補正予算案が成立したが、コロナ対策の予算は医療よりも、まだ迎えてもいないコロナ終息後の消費に重きを置いている。医療や看護が身近に迫った今、一人ひとりが政治を考え、国が医療に財源を投入して早急に対策を講じるよう世論が形成されなければならないだろう。

 

ナイチンゲールの生誕にちなんだ5月12日は「看護の日」。2020年はナイチンゲール生誕200周年という記念すべき年だ。看護師の抱える問題について改めて考えたい。

 

 

ニュース元:小林 美希(ジャーナリスト)/現代ビジネス

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200502-00072265-gendaibiz-soci

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