第14回 / 血圧の調節機構

1 血圧の方程式

 

血圧は、皆さんも病院などで測ったことがあると思いますが、血圧に影響を与える因子やその調節機構について知っている人はあまりいないのではないでしょうか。でも、医療過誤事件を扱う弁護士としては、基礎的知識として知っておく必要があると思います。血圧は、以下の式で表されます。

 

血圧= 心拍出量 × 末梢血管抵抗

 

また、心拍出量に影響を与える変数は、循環血液量と心臓の収縮力(ポンプ力)ですので、これを代入すると以下のように表現することもできます。

 

血圧= (循環血液量 × 心収縮力) × 末梢血管抵抗

 

2 交感神経と副交感神経

 

さて、まず心臓の収縮力に影響を与える因子には交感神経と副交感神経があります。交感神経は心臓を興奮させ心臓の収縮力を高めます。逆に副交感神経は心臓をリラックスさせて、心収縮力を下げる役割を果たしています。

 

具体的な機序について説明すると、まず心収縮力を高めるために、交感神経が末梢からカテコラミン(アドレナリンとノルアドレナリン)という物質を分泌し、これらの分泌物が心臓を興奮させます。
 他方で、心臓をリラックスさせるためには、副交感神経がアセチルコリンという物質を分泌させて、その分泌物が心臓の収縮力を下げる働きをします。これらの分泌物は、医学書や薬学書にもよく登場するので覚えておいたほうがよいでしょう。

 

また、アドレナリンとノルアドレナリンは、心収縮力を高めるだけではなく、別の因子である末梢血管抵抗も高めます。

 

以上をまとめて整理すると、

 

・交感神経 
 カテコラミン(アドレナリン・ノルアドレナリン)分泌→心収縮力↑、末梢血管抵抗↑→血圧↑
・副交感神経 
 アセチルコリン分泌→心収縮力↓→血圧↓

 

3 RAA系

 

RAA系とは、レニン・アンジオテンシン・アルドステロンの頭文字を取った呼称です。このレニン・アンジオテンシン・アルドステロンという物質が、どのような機序で血圧に影響を与えるのかを理解することは、降圧剤の作用機序を理解するためにも重要です。

 

さて、ここで血圧の式をもう一度確認しましょう。

 

血圧=(循環血液量×心収縮力) × 末梢血管抵抗

 

RAA系の物質は、腎臓と連携して上の式の循環血液量に影響を与えます。

 

なぜ腎臓と連携しているのかというと、腎臓が排尿を通じて循環血液量に影響を与えているからです。つまり、腎臓が排尿を促進すれば、体の水分が減少するので結果として循環血液量も減少する、逆に排尿を抑制すれば、体の水分も相対的に増えますので結果として循環血液量も増加するということになります。

 

さて、こちらは作用機序が少々複雑ですので順序立てて説明します。

 

腎臓には糸球体という尿を濾過する場所があって、そこの糸球体装置が「レニン」という酵素を分泌します。

 

そして、このレニンは、血中のアンジオテンシノーゲンという物質を分解し、「アンジオテンシンT」という物質に変えます。

 

次に、このアンジオテンシンTという物質は、さらに活性度の高い「アンジオテンシンU」に変わらないといけないのですが、それは「アンジオテンシン変換酵素」(ACE)によってなされます。変換とは、アンジオテンシンTをUに変えるということです。
 降圧剤の中に、アンジオテンシン変換酵素阻害薬というのがありますが、まさにこの作用を妨害して血圧を下げようとしているのです。

 

さて、話の続きに戻りますが、このアンジオテンシンUがどのように作用して血圧を上げるのかというと、その作用は2つあります。

 

まず、動脈壁の筋肉を収縮させて血圧を上げます。加えて、副腎からアルドステロンというホルモンを分泌させます。そして、このアルドステロンが腎臓に対してナトリウムを保持しカリウムを排出させるように働きかけます。

 

ナトリウムは、言ってみれば塩分ですから、これが保持されると、体はこれを薄めるために水分を求めます。それは喉の渇きによって水分摂取量が増えることと腎臓による水分再吸収によって実現されます。

 

結果、水分量が増加したことによって、循環血液量も増えるというメカニズムです。なんだか、長い連鎖で大変ですね。この連鎖を整理してみましょう。

 

腎臓がレニン分泌→アンジオテンシノーゲン分解→アンジオテンシンTに変身→ACEによってアンジオテンシンUに変身→副腎からアルドステロン分泌→水分摂取量増加、腎臓の水分再吸収増加→循環血液量増加→血圧上昇

 

なんだか長いですね。整理した意味があるのかどうか分かりませんが、RAA系の理解は大事なので頑張って覚えましょう。皆さんの頭の整理の一助になれば幸いです。

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