第16回 / インフォームドコンセント・セカンドオピニオン

今ではインフォームドコンセントやセカンドオピニオンといった言葉を聞くようになって久しいことと思います。前者は、十分な情報を伝えられた上での合意を意 味し、後者は、専門的知識を持った第三者に意見を求める行為を意味します。もちろん、両者は全く別物ですが、共に患者側の医療行為に対する自己決定権を重 視する最近の医療業界の傾向を象徴する用語です。

 

インフォームドコンセントが医療機関側に求められるようになり、医師に課される事前の説明義務も高度のものとなってきています。一昔前までは、医師は権威 的存在とみられ、私たち患者が何か意見を述べたり、医療行為の説明を求めるなどもっての他とすら考えられていました。

 

それは、医師が専門的知識や経験を有 していて、かつ聖職とまで言われていたので、一般市民からかけ離れた存在で、患者は全て任せるしかなく、医師も全面的に信頼して任せてくれるものとの固定 観念が浸透していたからです。患者側から、説明を求めたりすれば、「この私が信用できないのか」とばかりに、医師の機嫌を損ね、その後の治療に影響しかね ない、そんな風潮があったら、誰だって黙って任せる途を採りたくなるかもしれません。

 

しかし、インフォームドコンセントが周知されるに至って、何か重大な 医療行為をするにあたっては、その医療行為に関する情報を与えた上で、患者の同意まで得なければならないこととなったわけです。随分と時代は変わったもの ですね。現在では、インフォームドコンセントの裏返しとして、医師には、医療行為の内容、期待される効果のみならず、その行為の危険性・副作用といったマ イナス情報や代替的医療行為の有無、予後の推測までをも正確に説明することが要求されるのです。

 

そして、医療機関側の説明義務は、一般医療分野よりも、美容外科分野において厳格化されます。疾患治療目的の医療行為は、多かれ少なかれ、医療行為の緊急 性が要請されるため、患者が納得するまで十分な情報を提供する説明にも限界があるでしょう。これに対し、美容分野では、医療行為の目的が患者の要望の満足 にあり、その医療行為を受けるか否かは患者の全くの自由意思に委ねられています。

 

したがって、美容整形分野においては、患者の意思決定に影響しうる事項 は、利益不利益情報全て時間をかけてでも提供されなければならないのです。しかし、実際には、結果を請け負う性格のある美容整形医は、期待される効果ばか りを宣伝し、リスクや副作用の点は曖昧にしたり、全く触れないことすらまま見受けられます。この傾向に警笛を鳴らすべく、裁判所は美容分野の説明義務をよ り厳しく判断しているようにも感じられます(名古屋高金沢支判昭和53年1月30日、福岡地判平成5年10月7日、広島地判平成6年3月30日、東京地判平成15年7月30日等)。

 

逆に、生命の危機に瀕し、一刻を争うような場面においては、医師の説明義務が大幅に緩和されるか、緊急避難的に説明義務が免除されることもあります。ま た、がん等不治の病とされている病気に罹患した患者に対する説明義務ですが、以前は家族のみにしか正確な情報を与えないのがむしろ是とされていました。し かし、医療技術の発達により、がん治療の寛解率も向上し、今では、ためらいなく病名を告知し、患者自身に手術療法、化学療法、放射線療法といった治療法を 選択させる医師が増えてきています。

 

次に、セカンドオピニオンに関してですが、患者は、担当医から十二分の説明を受けたからといって、その医療行為を受けるか否かをその場で選択しなければな らないわけではありません。インフォームドコンセントは、その医師一人の説明義務が尽くされたのかという範囲にとどまらないものなのです。

 

患者は、担当医 師の説明を聞いても納得しなければ、また一応納得しても、他の医師の意見も聞いてみないと気が済まないという場合でも、いったんその場を離れて、第三者の 医師に同様の説明を求める権利があります。これがセカンドオピニオンと呼ばれるものです。セカンドオピニオンもインフォームドコンセント程ではないにして も、今や医療界での常識ともいえます。医療過誤のリスクを軽減するためにも行っておくことをお勧めします。

 

他の医師の意見も聞いてみたいと告げられて気分を悪くするような医師は、避けておくに越したことはありません。た だ、セカンドオピニオンで他院を受診する場合、診療ではなく、相談となるため、健康保険が使用できないことには注意が必要です。

PC電話ロゴ PCメールロゴ