第28回 / 弁護士費用保険について

前回までは、先駆的医療に関する諸問題を連続して取り上げてきましたが、今回は話題を変えて、「弁護士費用保険」について取り上げてみたいと思います。

 

車を運転し、任意保険に加入されている多くの方は、任意保険に「弁護士費用特約」(いわゆる「弁特」)がついているのはご存知ではないでしょうか。交通事故の被害者となってしまった場合に、損害賠償請求をするための弁護士費用を支払ってくれる保険のことで、「弁護士費用保険」の一種です。

 

弁護士費用特約として、交通事故分野で普及し多く使われるようになってきた弁護士費用保険ですが、最近では、弁護士費用保険単独の保険商品や、損害保険・生命保険の特約、団体契約保険の構成員が加入できる保険商品として開発・販売されるようになってきました。海外では、弁護士費用保険の普及率は人口比5割を超える国もあるようです。

 

医療過誤による損害賠償請求のための調査や訴訟にあたっても、これら弁護士費用保険を使用できる場合があります。
医療過誤による損害賠償請求をするためには、多額の費用がかかります。弁護士費用だけで数十万円〜百万円以上、さらに、医師や医学者に対して鑑定を求める場合には鑑定費用として同程度が上乗せされるといった具合です。
決してぼったくっているわけではなく、カルテや画像データの精読、国内外の医学文献検討といった調査及び理論構成に膨大な時間を要するため上、訴訟も長期化することが多いため、どうしてもこのくらいの金額になってしまうのです。

 

弁護士費用保険の利用が可能であれば、この弁護士費用のうち、一定程度の金額までは保険でカバーされます。また、交通事故の分野では、カルテや画像データの開示にかかる費用なども、保険でカバーされることが少なくありません。
さらに、弁護士費用保険の約款によりけりですが、鑑定費用が一定程度保険でカバーされる可能性もあります(※約款を精査していないので詳細は分かりません。鑑定費用がカバーされる商品が販売されていないようでしたら、保険会社各社にはぜひ販売していただきたいと思います。)。

 

医療過誤訴訟の場合、高額な費用を理由に、弁護士への依頼を断念してしまう、という方が少なからずおられます。
弁護士費用保険の普及により、このような事態を避けることが期待できます。弁護士費用保険に加入されていない方は、ぜひ加入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

なお、弁護士の立場からすると、弁護士費用保険の普及により、法律扶助制度と同じように、弁護士費用の決定権が支払側(保険会社)に移ってしまうのではないか、という不安があります。しかし、少なくとも、医療過誤訴訟のように、時間とコストがかかることは避けられず、かつ、時間とコストを掛けなければよい結果が望めない事件類型に関しては、保険金支払軽減だけを目的に、弁護士費用を極小化しようとすると、結局は、保険加入者にとって満足な結果が得られず、保険商品としての競争力も減退してしまいます。あくまで民間の保険会社としては、適切な力量ある弁護士に適切な費用を払わなければ競争優位を保てないというインセンティブがある以上、弁護士がしっかりと研鑽を積んでいる限り、弁護士費用を過剰に値切る方向となる虞は少ないのではないかと私個人は考えています。

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