当医療事業部に所属している弁護士が実際に解決した医療過誤案件の解決事例です

胆嚢摘出術の術後感染で壊死性筋膜炎を発症し、その後敗血症性ショックで死亡したことについて、500万円で訴訟上の和解が成立した事例

胆嚢摘出術の術後感染で壊死性筋膜炎を発症し、その後敗血症性ショックで死亡したことについて、500万円で訴訟上の和解が成立した事例

事案の概要

 

胆嚢摘出術を受けた患者さん(60代、男性)は、術後感染で壊死性筋膜炎に罹患しましたが、医師は、この感染症を見落としてしまいました。その結果、壊死性筋膜炎はどんどん進展して縦隔炎を合併するに至り、最終的には敗血症性ショックで死亡しました。

 

当初、患者さんのご遺族は、病院に説明を求めましたが、病院側の説明では、感染が疑われた部位(感染巣)から膿は排出されなかったため、感染症の発症については否定的な所見であったとし、病院側の診断に落ち度はないということでした。

 

また、原因微生物は、エロモナス・ハイドロフィラという細菌で、俗に“人食いバクテリア”と呼ばれる致死性の高い細菌感染であるから、いずれにしても救命は困難であったという見解を示し、自らの責任を否定する説明に終始しました。
そのため、病院側の説明に納得できないご遺族は、当法人の弁護士に相談しました。

 

弁護士の方針・対応

 

医療調査として受任した後、医学文献等で調べてみたところ、壊死性筋膜炎という感染症は、致死性が高く、とても恐い疾患であることがわかりました。短時間で感染が広がっていき、筋膜がどんどん壊死していくために、抗菌薬を投与するだけでは治療できない感染症なのです。壊死した部分には血流がなくなるため、抗菌薬が届かないからです。したがって、感染の拡大を防ぐため、デブリードマンを実施して、感染部位を外科的に切除しなければならないのです。救命できたとしても、上肢、下肢の切断を要することも珍しくないそうです。

 

幸いにして、この事例に関しては、素晴らしい協力医が見つかりました。大学病院の教授で、感染制御学を専門とする医師でした。加えて、壊死性筋膜炎の臨床経験も豊富で、非常に有益な知見も得られました。協力医の先生曰く、壊死性筋膜炎の場合は、他の感染症と異なり、膿の排出がないのはむしろ典型的な所見であるということでした。壊死した部分には血流がないため、そこに好中球が遊走してきません。好中球が遊走してこないのですから、膿が形成されないのは当然ですね。

 

膿とは、要するに、細菌などの異物と闘った好中球の死骸なのですから。この事例では、主治医らが感染症の可能性を否定してしまったわけですから、デブリードマンはもちろんのこと、適切な抗菌薬投与も実施されていませんでした。

 

協力医の助言では、明らかに見落としの過失があるということでしたが、そもそも致死性の高い感染症であるため、適切な治療を行えば救命できたかどうかは微妙で、やってみなければわからない、ということでした。この事件の協力医が素晴らしかった点は、感染症を専門分野とする大学教授であることに加え、意見書の作成にとどまらず、法廷での証言もご快諾してくださったことです。まさに鬼に金棒でした。因果関係に関しては立証の壁がありましたが、過失は明らかであると思われたので、提訴に踏み切りました。

 

結果

 

この事件は、提訴後も原告と被告の主張は激しく対立し、双方から膨大な医学文献が提出されました。そして、和解の話し合いの機会もなく、証拠調べ(証人尋問)に突入しました。こちらからは、協力医の先生に法廷で証言してもらいました。被告病院からは、主治医の医師のほかに、他の病院の医師も助っ人として法廷で証言しました。最大の争点は、やはり死亡との間の因果関係でした。

 

裁判所は、過失に関しては肯定できるという心証を抱いたようで、証拠調べ後に和解の提案がありました。もっとも、因果関係については疑問をもったようで、相当程度の可能性法理を前提とした和解案の提案となりました。被告病院の弁護士さんは、裁判所の和解提案に前向きでしたが、もし和解が成立しなかった場合は、カンファレンス鑑定を申し立てる予定であると述べていました

 

この事例では、因果関係の立証が難しかったことに加え、鑑定が実施されると、鑑定医によって、過失自体も否定される可能性が危惧されました。というのは、主治医の専門が感染症ではなく消化器外科であることから、鑑定医が主治医に同情し、庇ってしまう可能性があったからです。そのため、鑑定を実施して決着をつめることは、却って依頼者に不利益になると考えて、裁判所の和解案を受け入れることにしました。

 

500万円で訴訟上の和解が成立しましたが、死亡との間の因果関係が認められないことを前提とすると、高額であると言えます。もし鑑定手続きに入っていたら敗訴した可能性もあったので、裁判所の和解提案を受け入れたのは得策だったと思われます。

PC電話ロゴ PCメールロゴ
トップへ戻る