当医療事業部に所属している弁護士が実際に解決した医療過誤案件の解決事例です

周産期管理ミスで新生児を窒息させ、脳性麻痺による重篤な後遺障害を生じさせたことについて、1億7000万円で訴訟上の和解が成立した事例

周産期管理ミスで新生児を窒息させ、脳性麻痺による重篤な後遺障害を生じさせたことについて、1億7000万円で訴訟上の和解が成立した事例

事案の概要

 

被告病院は、産まれたばかりの新生児が授乳の後ゲップをしなかったため、横向きの状態でベッドに寝かせたところ、その約30分後にうつ伏せ状態で発見されました。新生児にはチアノーゼが確認され、窒息を示唆するものでした。医療ミスではないかと疑った両親は、当初、他の法律事務所の弁護士(A弁護士さん)に依頼し、医療調査を実施してもらいました。A弁護士さんが協力医に助言を求めたところ、被告病院に責任はないとの意見だったため、その弁護士さんは、訴訟での勝訴は難しいと判断し、民事調停による話し合いの解決を選びました。

 

ところが、被告病院は、一貫してその責任を否定し、民事調停による交渉で妥協点を見いだせず、調停による話し合いは3年を経過しました。その後、中立的な第三者機関により作成された医療事故調査報告書が作成・提出され、その報告書も被告病院の責任を否定する内容でした。その結果、責任がないことを確信した被告病院は、民事調停において解決金を支払うことを拒み、約3年半の年月を経て、調停は不調(交渉決裂)で終了しました。

 

そもそも、A弁護士さんは、勝訴の見込みなしと判断していたため、依頼者に辞任の意向を伝えており、替わりに当法人の弁護士が受任することとなりました。そして、当法人は、勝訴の見込みありと判断し提訴しました。

 

弁護士の方針・対応

 

この事例の解決の糸口は、第三者機関が作成した医療事故調査報告書にありました。この報告書によれば、新生児の脳性麻痺の原因は、乳幼児(新生児を含みます)突然死症候群によるもので、病院に責任はないと結論づけられておりました。この事例では、新生児は死亡しておりませんが、それはたまたま蘇生処置が間に合ったからであって、この症候群によれるものと判断されたのです。

 

しかしながら、この乳幼児突然死症候群には注意が必要です。乳幼児が突然死亡した場合に、原因がわからなかったもの全てがこの症候群に放り込まれてしまうからです(いわゆるゴミ箱診断)。要するに、乳幼児突然死症候群という概念は、「新生児や乳幼児が突然死亡したが原因不明だ」と言っているだけで、確立した疾患概念ではないのです。そして、この報告書を丁寧に読むと驚くべきことが記載されていました。

 

本件における新生児の脳性麻痺の原因として考えられるもののうち、最も可能性が高いのは、うつぶせ寝による窒息で生じた低酸素症と記載されていたのです。ところが、その報告書を作成した医師らは、うつぶせ寝による窒息とは断定できないとし、乳幼児突然死症候群に放り込んでいます。要するに、@うつぶせ寝による窒息の可能性が最も高い。→Aしかし、そのように断定はできない。→B原因不明→C乳幼児突然死症候群というロジックが組み立てられていたのです。

 

当事務所の訴訟方針としては、協力医の意見書ではなく、この事故報告書の内容を逆手に取って、主張・立証活動を展開することにしました。協力医に助言を求めても、A弁護士さんが依頼した協力医やこの報告書を作成した医師らと同様に、病院の責任を否定する医師が多いのではないかと考えたからです。

 

しかも、この事例では、A弁護士さんがすでに3年以上も調停による話し合いをしており、ここで新たに協力医探しをしていると、さらに時間がかかってしまい依頼者にとって大きな不利益となります。他方で、第三者委員会が作成した報告書は、中立性が担保されており、しかも高名な医師の名がたくさん連ねてありました。そうすると、その内容の信頼性は、鑑定人の意見と同等かそれ以上と思われます。

 

そこで、原告側の代理人としては、この報告書を軸に医学文献を活用して立証活動を行うことにし、鑑定の申出もしないことにしました。鑑定を実施しても、被告病院の責任を否定する意見が追加されるだけと考えたからです。

 

結果

 

訴訟が始まってからわずか半年後に、裁判所は被告病院の有責を前提とした和解による解決を提案しました。要するに、裁判所は、病院に責任ありとの心証を形成したのです。ところが、被告病院は、これに強く抵抗しました。中立な第三者機関が作成し、著明な医師らがたくさん名を連ねている報告書が被告病院の責任を否定しているのに、高額な和解金を支払うことに納得できなかったからです。すると、裁判所は、「現時点における当裁判所の見解」と題する書面を作成してくれました。

 

そこには、詳細な根拠が示されており、現時点での証拠関係を前提とする限り、原告の請求を認める予定だと書かれていました。敗訴を確信した被告病院は、こうして和解の交渉テーブルに誠実に対応するようになり、1億7000万円の支払い義務があることに同意しました。訴訟提起からわずか1年程度のスピード解決、しかもその内容は理想的なものとなり、事件は終結しました。もっとも、両親は、提訴前に産科医療補償制度により3000万円を受領していたので、被告病院から実際に支払われる額は、この3000万円を控除した額となっています。

 

理想的な解決ができたポイントは、@解決手段として訴訟を選択したことと、A医療事故調査報告書の分析にあります。まず@についてですが、依頼者は、民事調停の終盤からA弁護士さんが辞任の意向を示していたため、民事調停の代理人を当法人の弁護士に引き継いでもらおうと考えていました。予めA弁護士さんから勝訴の見込みなしと聴いていたからです。そもそも、勝訴の見込みがない事例は、民事調停を行っても解決する見込みはさらに低くなります。

 

患者側に勝ち目がない事例なのに、どうして病院側が高額な和解金の支払いに応じるのでしょうか。民事調停で解決できる事案は、むしろ勝訴の見込みが極めて高い場合です。交渉が決裂すると、病院側は訴えられてしまうからです。なので、当法人の弁護士は、解決したいなら訴訟しか選択肢はないと助言しました。

 

次にAですが、専門家である医師が作成した書面(意見書、鑑定書、医療事故調査報告書)の読み方には注意が必要です。医師の責任を肯定するかに読める医学的知見を提供しておきながら、結論部分で「病院に責任なし」とひっくり返すものが少なくないからです。A弁護士さんの失敗は、専門家の作成した書面の分析と、協力医の助言に対する過度な信頼です。もしA弁護士さんが勝訴の見込みありと判断し、かつ最初から訴訟を選択していれば、迅速に理想的な解決ができた事例です。

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