当医療事業部に所属している弁護士が実際に解決した医療過誤案件の解決事例です

肝生検の手技ミスで肺損傷を合併させ、その結果、空気塞栓による脳梗塞で患者に重度後遺障害が残ったとして、1億3019万425円の賠償を認めた事例(患者側勝訴判決)

肝生検の手技ミスで肺損傷を合併させ、その結果、空気塞栓による脳梗塞で患者に重度後遺障害が残ったとして、1億3019万425円の賠償を認めた事例(患者側勝訴判決)

事案の概要

 

患者さん(60代、女性)は、健康診断を経て、肝硬変等の疑いがあると診断され、被告大学病院にて肝生検を受けることになりました(エコーガイド下肝生検)。術者は、5回に及ぶ肝生検を試みましたが、肝組織を採取できませんでした。その2日後、患者さんは、肺組織損傷に伴う空気塞栓と診断され、約1年間治療とリハビリテーションを受けましたが、空気塞栓による脳梗塞で片麻痺等の重度後遺障害が残ってしまいました。本事例は、この空気塞栓が、肝生検の手技ミスによる肺損傷で引き起されたものであるとして提訴されたものです。

 

肝生検の際に肺を損傷させ、その結果空気塞栓、脳梗塞を発症されたことに関して、当事者間に争いはありませんでした。この事例では、これが術者の盲目的穿刺によるものなのか(医師のミス)、患者が息止めの注意を守らなかったことによるのか(患者の不注意)、が大きな争点として争われました。

 

弁護士の方針・対応

 

この事例では、術中ビデオ等の撮影は行われていなかったため、術者の具体的な手技の様子はわかりません。 被告大学病院は、肝生検の際に患者さんが息止めの注意を守らなかったため、その結果、吸気により肺が下方に移動し、肺組織を損傷させるに至ったのであるから、患者さんの落ち度であると終始主張していました。

 

しかしながら、この事例では、患者さんのBMIが48.9であったという特殊事情がありました。加えて、5回も穿刺を繰り返しながら、肝組織の採取に失敗しているという経過が、術者による盲目的穿刺(肝臓や肺の描写が不十分であるにもかかわらず、手探りで穿刺を敢行)の可能性を強く示唆しています。このように患者さんの背景事情や診療記録に現れている臨床経過はこちらに有利なものでした。

 

訴訟戦術としては、@エコーガイド下肝生検に替えて、CTガイド下又は腹腔鏡下の肝生検を実施すべき注意義務を立てるとともに、これと並立してAエコーガイド下肝生検を中止すべき注意義務を立てました。エコーガイド下肝生検に比べ、CTガイド下や腹腔鏡下のほうが描写に優れるのですが、医療現場で標準的に実施されているのはエコーガイド下です。

 

したがって、この標準的な手技を行わず、一般的ではない手技を行うべき義務を立証するには少々ハードルが高いと考えました。もっとも、肺組織を損傷するリスクが高いのであれば、少なくともその手技を中止すべき義務を負わせることに合理性はあるので、この主張も並行して組み立てました。実際に、この裁判例は、Aの注意義務違反で被告大学病院の過失を認定しています。

 

結果

 

この事例で最も画期的で特筆すべき点は、原告側から専門家の意見書を証拠として提出しておらず、また鑑定も実施されていないにもかかわらず、裁判所が1億3000万円を超える高額な損害賠償の支払いを被告大学病院に命じた点です。

 

医療訴訟を手がけている弁護士の常識では、専門家が述べた意見書もなく、また鑑定も実施されていないのに、患者側の請求が全面的に認められるということはほとんどないと考えられています。この事例では、被告が著明な大学病院であったため、患者側に有利な意見書を書いてくれる専門医がなかなか見つからなかったという背景がありました。

 

したがって、本来であれば、これを補うべく鑑定の申し出をするべきともいえそうなのですが、鑑定人が被告大学病院をかばってしまうと、却ってこちらに不利な結果を招きます。そのため、鑑定の申出もあえて行わず、診療記録と医学文献だけをたのみとして、勝訴判決を取りに行くという勝負にかけたわけです。幸いにして、この事例では、立証活動に成功して、勝訴判決を取ることができました。

 

なお、この事例(東京地裁令和2年1月23日判決)は、第1審判決で確定しており、金ア浩之弁護士が、「医療判例解説2020年6月号」(医事法令社)で解説していますので(124頁〜128頁)、さらに詳細を知りたい方はそちらを参照してください。

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