医療過誤用語集

医療賠償責任保険(いりょうばいしょうせきにんほけん)

 

医療事故に関する医師賠償責任保険としては、日本医師会が保険契約者となり、日本医師会員被保険者となる保険(日医保険)と、医療法人や地方公共団体の病院が加入する保険(民間保険)があります。過失の判定機関としては、日医保険では、医学関係者六名と法学関係者四名よ りなる「賠償責任審査会」がありますが、民間保険にはそのような独立した機関はなく、都道府県医師会内の医事紛争処理委員会が保険会社の委託を受けて判断 したり、保険会社が独自に専門医に相談したりして判断しています。

 

医療ADR(いりょうエーディーアール)

 

医療ADRとは、各弁護士会が医療紛争を得意とする医療機関側及び患者側の双方の弁護士を立て、裁判所の調停のように話し合う場です。この医療ADRは、2007年9月に発足しましたが現在まで利用状況は、2007年9月から2009年4月までの約1年7ヶ月間で申し立てられた件数は72件です。その中身ですが、申立件数のうち、患者側の申立が69件だったのに対し、医療機関側からはわずか3件でした。したがって、医療機関からはあまり信用されていない制度だと言えます。今後の課題が色々と残る制度だと思われます。

 

医療過誤(いりょうかご)

 

医療過誤(いりょうかご、Medical malpractice)(俗に医療ミス)という言葉は、実際には「法律」によって決まった定義はありません。しかし、「リスクマネージメントマニュアル作成指針」というガイドラインによって定義されています。具体的には、医療事故のうち医療従事者側等の人的または物的なミス(過失)がある場合にいう言葉です。すなわち、医療従事者が、医療の遂行において、医療的準則において患者に不利益を被り被害を生じさせた状態です。医療過誤であることを確定するためには、過失の法的構成要件が揃っている必要があります。

 

医療事故(いりょうじこ)

 

医療事故(いりょうじこ、Medical accident)とは、医療に関わる場所で、医療の全過程において発生するすべての事故をいいます。よって、医療従事者に過失がある場合だけでなく、予測不能や回避不可能であった事例や、患者だけではなく医療従事者に不利益を被った事例も含みます。それに対し、医療過誤(医療ミス)は、医療従事者に過失がある場合のみを指す言葉です。

 

医療訴訟(いりょうそしょう)

 

医療訴訟とは、医療行為の適否や、患者に生じた死亡・後遺障害などの結果と不適切な医療行為との因果関係、さらにそのような結果に伴って発生した損害の有無及び額が主要な争点となった民事訴訟のことであり、医事関係訴訟、医療過誤訴訟とも呼ばれます。広義では、業務上過失致死傷罪の罪名のもと、医療行為上の過失の刑事責任が問われる刑事訴訟の場合も含みます。

 

インフォームド・コンセント(Informed Consent)

 

インフォームド・コンセントは、「正しい情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念。特に、医療行為(投薬・手術・検査など)や治験などの対象者(患者や被験者)が、治療や臨床試験/治験の内容についてよく説明を受け理解した上で (informed) 、方針に合意する (consent) ことです。説明の内容としては、対象となる行為の名称・内容・期待されている結果のみではなく、代替治療、副作用や成功率、費用、予後までも含んだ正確な情報が与えられることが望まれています。尚、英語の本来の意味としては「あらゆる」法的契約に適用されうる概念ですが、日本語でこの用語を用いる場合はもっぱら医療行為に対して使用されます。

 

カルテの改ざん(カルテのかいざん)

 

カルテの改ざんとは、医療ミスや医療事故などが起こったときに、医師が自分の都合の良いようにカルテを修正したり書き変えたりすることです。医療過誤裁判の中でも、医師がカルテを書き変えていることがよくあります。
証拠保全の当日に、その場でそれを発見することは容易ではありませんが、「古いカルテなのにホッチキスが新しい」、「インクの色が新しい」、「書いた文字に修正がされてある」、などに注意をはらい改ざんを発見します。

 

鑑定(かんてい)

 

医療事故のような専門的事件においては、裁判官の判断能力を補助させるために、特別な学識や経験を有する者(医師など)から、その専門的知識やその知識を具体的な事実関係に適用して得た判断を訴訟において、報告させる証拠調べのことを「鑑定」と言います。

 

協力医(きょうりょくい)

 

協力医とは、医療紛争の際に、患者又はその遺族に対して医学的知見を提供するなどの協力をする医師をいいます。
もっとも、その協力の仕方・度合いには個人差があり、患者側の代理人弁護士に医学的知見を提供するだけにとどまる医師もいれば、裁判などで利用する意見書を書いてくれる医師もおります。さらに進んで、法廷に立ってもいいとさえ言ってくれる医師もおります。
このような協力医は、協力の程度は様々であるにせよ、医学の専門家ではない弁護士にとって大変ありがたい存在です。特に、患者側の代理人をつとめる弁護士にとっては、医師や医療機関を敵に回すわけですから、なかなか専門家の協力を確保しにくいのでなおさらです。まず、患者側の弁護士として、医療裁判を手がけるためには欠かせない存在であることは間違いないと思います。

 

私的鑑定(してきかんてい)

 

医療事件では、医療過誤のあった医師の責任を追及するために、医療記録の収集が必要ですが、収集したカルテ等を基に、医療ミスがあったか否か判断するには、専門家である医師の意見を聞かなければなりません。そのような場合に過誤のあった分野の専門医師に協力して頂き意見書を作成してもらいますが、これを通称「私的鑑定」及び「私的鑑定意見書」といいます。「鑑定」とつきますが、いわゆる裁判所の公的な鑑定とは違い、あくまで医師の私的な意見書です。しかし、医療裁判で立証責任を負う患者側としては、過失等を裏付ける専門家の意見を積極的に提出する必要がありますので、医療裁判では必要不可欠といえるものです。

 

証拠保全(しょうこほぜん)

 

医療訴訟の場合には、カルテ(診療録)・レントゲン写真・看護記録等診療上作成された資料が裁判で大変重要な証拠となります。 また、医療訴訟で病院側と戦っていくためには、その戦いが示談であれ、訴訟であれ、まず重要なのが証拠集めです。証拠の多くは医療機関が保有しているため、患者サイドとしては、その医療機関側にある証拠を吐き出させる必要があります。そのような場合に裁判所を通して活用するのが「証拠保全」です。そしてこの証拠保全は、病院側に破棄、改ざんをされないようにスピーディーに行う必要があります。

 

セカンド・オピニオン(Second Opinion)

 

セカンド・オピニオンとは、よりよい決断をする為に、当事者以外の、専門的な知識を持った第三者に、求めた「意見」の事。または、「意見を求める行為」の事。医療の分野の場合、患者が、検査や治療を受けるに当たって、主治医以外の医師に求めた「意見」。または、「意見を求める行為」。
主治医に「すべてを任せる」という従来の医師患者関係を脱して、複数の専門家の意見を聞くことで、より適した治療法を患者自身が選択していくべきと言う考え方に沿ったものです。セカンド・オピニオンを求める場合、まずは主治医に話して他医への診療情報提供書を作成してもらう必要があります。意見を求められた医師は、これまでの治療経過や病状の推移を把握しないことには適切な助言をすることが難しいからです。その上で、紹介先を受診し意見を求めることになります。このとき、新たな検査を必要とする場合もあります。

 

損害賠償(そんがいばいしょう)

 

「債務不履行」や「不法行為」などの民事上違法な行為に基づいて損害が生じた場合に、その損害を補填して損害がなかったのと同じ状態にすることを言います。適法な行為に基づいて発生した不利益を補填することは、「損失補償」と言います。医療訴訟においては、被害を受けたことで支出を余儀なくされた「積極損害」、被害を受けたことで本来あるべき収入が入らなくなった「消極損害」、被害を受けたことで精神的苦痛を感じた「慰謝料」などが損害賠償にあたります。

 

調停(ちょうてい)

 

調停とは、裁判所を中立的な第三者として関与してもらいお互いに話し合う場です。裁判所が関与していても法的強制力のある判決をくだすわけではなく、あくまでも基本は話し合いです。なので、本質的には交渉と同じなのですが、単なる交渉と違うのは、裁判所という公的機関が関与してくれるので話し合いがまとまりやすいことや、合意に達した場合に判決と同じ効力が付与されているので、合意に法的強制力がある点です(具体的には、相手方が合意の内容を履行しない場合、強制執行が可能となります)。

 

ヒヤリ・ハット

 

ヒヤリ・ハット(英語ではありません)とは、重大な医療ミスや事故には至らないものの、直結してもおかしくない一歩手前の事例。「ヒヤリハット」とは文字通り、突発的な事象やミスに「ヒヤリ」としたり、「ハッと」したりすることから言われるようになりました。
ちなみに重大な医療事故が発生した際には、その前に多くのヒヤリ・ハットが潜んでいたと言われています。ヒヤリ・ハットは、結果として事故に至らなかったものでもあるので、直接の関係者は「ああよかった」と直ぐに忘れがちです。そこで、職場や作業現場などでは、敢えて各個人が経験したヒヤリ・ハットの情報を公開させ、蓄積、共有することで、重大な労働災害の発生を未然に防止する活動が行われています。

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