肛門管癌は、直腸肛門管に発生する癌の2〜5%と言われており、消化器癌の中では希な癌です。
大腸癌取扱規約によると、肛門管とは、「恥骨直腸筋付近部上縁より肛門縁までの管状部」と規定されております。
この定義によると、恥骨直腸筋付近部上縁よりも下に発生した癌であれば肛門管癌と判断されるのですが、以前は、恥骨直腸筋付近部上縁より下部であっても、歯状線よりも上であれば直腸癌とされていたそうです。
そうだとすると、どこまでが直腸癌でどこからが肛門管癌かという問題は、分類・定義の問題にすぎないとも言えそうです。しかし、後述するように、肛門管を歯状線で上部・下部(上部肛門管癌・下部肛門管癌)に分けることは、予後を考える上で重要です。
肛門管癌の特徴を次のように整理してみました。
@痔などの良性腫瘍と誤診されやすく、早期癌が少ない。したがって、肛門管癌であると診断された時には、進行癌であるケースが多い。
A癌の組織型では、腺癌43%、扁平上皮癌24%、粘液癌24%という報告がある(腺癌が最も多い)。腺扁平上皮癌や未分化癌は希である。
B組織型と癌の占居部位の関係について、腺癌では上部肛門管癌が75%に達し、他方、扁平上皮癌の64%、粘液癌の69%が下部肛門管癌であったという報告がある。この報告からは、腺癌は上部にできやすく、扁平上皮癌と粘液癌は下部にできやすいと言える。
C肉眼所見としては、腺癌の場合は限局潰瘍型が高率、扁平上皮癌の場合は限局潰瘍型・浸潤潰瘍型が高率である。
D病巣の増殖方向について、管腔内方向に増殖していく「管内型」は69%、筋層から外側に増殖していく「管外型」は31%という報告がある。
E腫瘍長径4p以上、腫瘍環周率50%以上が67%を占めたという報告がある。
Fリンパ節転移は、肛門管癌全体では44%であるが、組織別にみると、腺癌50%、扁平上皮癌43%、粘液癌23%という報告がある。腺癌と扁平上皮癌とでは有意な差があるとまでは言えないが、粘液癌のリンパ節転移率は低いと言える。
肛門管癌の予後について、次のように整理しました。
@肛門管癌全体(但し、治癒切除例)の5年生存率は、49.8%という報告がある(大腸癌全体だと5年生存率は71.2%)。
しかし、組織型で差があり、同報告によれば、粘液癌は67%と高率で、腺癌52%、扁平上皮癌42%と続く。
A占居部位の5年生存率は、上部66%、下部33%という報告がある。ちなみに、同報告の10年生存率は、上部54%、下部17%である。上部肛門管癌に比べると、下部肛門管癌の予後は有意に悪い。
Bそ径部リンパ節転移は24%あり、そ径部リンパ節に転移すると予後が悪くなるという報告がある。
〈参考文献〉
林賢、廣田映五、板橋正幸、北條慶一、森谷宣皓、沢田俊夫著
「肛門管癌の臨床病理学的検討」(日消外会誌22巻10号)