自己決定権とは、自己に関する事柄については自らが決定できるという、憲法13条に由来する中核的な人権である。
そして、この自己決定権は医療現場では患者の権利として非常に重要な権利であるところ、インフォームド・コンセントが正しく行われなければ十分な自己決定権の保障ができない。
そこで、医師の説明義務が重要となるのである。
医師の説明義務は、主に以下の二つの法文から根拠づけられる。
@準委任契約に基づく報告義務(民法656条、644条、645条)。
A医師法23条、医療法1条の4第2項
B不法行為(民法709条)の違法性阻却の前提
一般的には、@当該疾患の診断(病名と病状)、A実施予定の医療行為の内容・目的・必要性、B医療行為に付随する危険や副作用・予後、C他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失・予後などについて説明する義務があると考えられている(最判平成13年11月27日判時1769号56頁等)。
@合理的医師基準説
合理的な医師であれば説明するであろう内容を説明すべきと考える説。
A合理的患者基準説
合理的な患者であれば重要視するであろう内容を説明すべきと考える説。
B具体的患者基準説
当該患者が重要視するであろう内容を説明すべきと考える説。
C二重基準説
医師が知りまたは知り得べき当該患者の全情報に基づいて患者が意思決定を行うにあたって重要視する情報であることを予見し得べき場合で、かつ、その情報が医師の知りまたは知り得べき情報である場合には、医師はその情報を説明すべきと考える説。
判例は、Cの立場に立つようである(最判平成13年11月27日判タ1079号198頁等、最判平成17年9月8日判タ1192号249頁)。
自己決定権の中心である「治療を受けるのか否か」、「治療を受けるとしてどのような治療をうけるのか」を患者が選択するための前提情報として、患者の病名や病状(病期の進行状況や余命など)を重点的に説明する義務がある。
このような情報を前提として、セカンドオピニオンを受けるなどして最終的に自らが望む治療法を選ぶことになる。
医療水準の記事で書いたとおり、医師が診療を行うにあたっては医療水準に適合する治療を行うことが求められる。
しかし、医療水準に適合するベストな治療法であったとしても、患者の自己決定権を侵害する治療が行われたとすると法的には適切な医療とはいえない。
医師が十分な説明義務を尽くさず、患者の自己決定権に反する治療がなされた場合、仮に患者にとって医学的に望ましい結果が得られたとしても、自己決定権の侵害として被った精神的苦痛に対する賠償として慰謝料請求がなされることになる。
もっとも、ある治療法を選択したことにより患者が死亡した場合、説明義務が尽くされていれば患者が当該治療法を選択していなかった可能性が高い場合には、説明義務違反により悪しき結果を招来した高度の蓋然性が認められるので、死亡結果に対する全損害が賠償範囲となる(新潟地判平成6年2月10日判タ835号275頁)。
@最判平成12年2月29日判タ1031号158頁
→治療方法選択につき自己決定権侵害が問題になった事案。
いわゆる「エホバの証人輸血拒否事件」
A最判平成14年9月24日判タ1106号87頁
→生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)につき自己決定権侵害が問題になった事案。