小山進医師によると、ナトリウムの補正の誤りによる医療事故というのはけっこうあるそうです(下記参考文献参照)。しかし、実際には日の目を見ない。医療紛争として顕在化してこないものも多数あるとか。
それは、原告側も被告側も気づかないことが多いからだそうです。 要するに、代理人弁護士の勉強不足ということですよね。 本来であれば、医療訴訟として意義がある、医療機関に医療過誤の責任を問えた、にもかかわらず、弁護士の力不足のせいで、真相は闇から闇へ…。
医療事件を専門分野としててがける弁護士として、これではいけません。まさに、鼎の軽重を問われます。しかし、逆に言えば、これをしっかり理解すれば、医療事件に強い弁護士だとも言えます。 多くの医療問題弁護士が見落としてしまう争点だからです。そこで、この機会に、Naの急速補正の何が問題なのか、しっかり押さえてください。
ナトリウム(Na)の基準値は140mEq/l(上下5までが正常値)と言われています。
そして、Na>150であれば高ナトリウム血症、Na<130であれば低ナトリウム血症と言われます。
@低ナトリウム血症の場合
・比較的、薬物の副作用で生じやすい。
・例えば、ナトリウムが110まで下がっていて、慌てて正常値まで回復させようとして急速補正。
→大脳と脊髄の橋渡しをしている「橋」(キョウと読みます)の細胞が浸透圧の関係で壊死してしまう(=橋中心性髄鞘崩壊症)。
・小山医師が見た症例では、前例死亡したそうです(下記参考文献参照)。
・したがって、1日に3回も4回も採血しながら、ナトリウムの値が行きすぎていないか厳重にチェックしながら補正する必要がある。
A高ナトリウム血症の場合
・慌てて補正して急速にナトリウムの値を落としてしまうと…、
・脳浮腫が起こる→脳ヘルニア
・やはり死亡を含む重大な事故につながる。
・カリウムの場合は、ナトリウムと違い、急速補正の必要あり。
・高カリウム血症でも、低カリウム血症でも、致死的不整脈を招き、心臓突然死につながりやすい。
・血中のカリウムは、4mEq/lしかないので、安全域が狭い。
・高カリウム血症の時に、うっかり3号輸液製剤を投与してしまうと大変。
3号輸液製剤には、カリウムがけっこう含有されているので、高カリウム血症を増悪させてしまう!