患者は、多発性嚢胞(のうほう)腎(じん)(ADPKD)を患っており、脳動脈瘤の有無を調べるために頭部MRIおよびMRA検査を受けました。この検査において、画像上、動脈瘤の所見があったにもかかわらず、診療録に「明らかな動脈瘤認めず」との記載がなされたため、患者は治療の機会を得られないまま過ごしていたところ、動脈瘤が破裂し、くも膜下出血を発症して死亡したという事案です。
患者の遺族である相談者は、動脈瘤を見落とされたがために死亡したのだとして、病院側の責任を問いたいと思い、弊所にご相談くださいました。
【交渉】
任意開示により入手した医療記録から、相手方(病院側)に有責性があると判断しました。直ちに損害賠償請求する流れへと移行しても良かったのですが、まずは争点を絞り、交渉による解決の道を探ろうと、質問状を相手方に送付することにしました。
質問状に対する相手方代理人からの回答は、動脈瘤の見落としを認めながらも、病院側の責任は認めないという内容でした。そのため、訴訟を行わずに希望する損害賠償金額を得るのは難しいことが予想されました。とはいえ、訴外交渉で解決できる余地はゼロではなかったことから、訴訟を提起する前に、損害賠償請求の通知書を相手方に発送しました。
しかしながら、相手方からの回答は、動脈瘤の見落としと患者の死亡との間に因果関係はない、とするものでした。ただ、動脈瘤の見落としがあったこと、そのせいで患者から治療の機会を奪い、死亡結果が生じていることは明らかであるからとして、示談金500万円を提示してきました。
請求内容と大きくかけ離れた回答を受けたため、これ以上の交渉においては実りが少ないと考え、訴訟を提起する旨、相手方に連絡しました。そうしたところ、相手方代理人から、示談金の増額方向で検討するため、訴訟提起はしばらく猶予してほしいとの申し入れがなされました。
相手方に検討する時間を与えた結果、風評被害を恐れる心理が働いたのか、2600万円を支払ってもらう内容で示談が成立しました。
さらに、示談書上、深く謝罪するとして、病院側からの謝罪を受けることもできました。相手方からの提示に妥協せず、根気強く交渉し続け、訴訟提起を持ちかけたこと等が、このような解決に繋がったのでしょう。