患者さん(60代、男性)は、首の痛みを主訴として受診したところ、変形性頚椎症及び椎間板ヘルニア疑いの診断を受け、手術をすれば治ると言われたことから、相手方病院で前方減圧術の手術(手術1)を受けました。ところが、手術1の5時間後に主治医が観察したところ、上肢の痺れ・四肢麻痺などの症状が見られました
。そこで、レントゲン撮影をしたところ、硬膜外血腫による圧迫の可能性が示唆されたため、手術1の8時間後から、患者さんに対して硬膜外血腫除去術(手術1)が施行されましたが、症状の改善はみられず、完全四肢麻痺の後遺障害が残存してしまいました。
本件を受任した当初、担当弁護士は、手術1の手技に過失があり、脊髄を損傷して不可逆的な四肢麻痺が残存したという経過を想定し、協力医に対して意見を求めました。しかし、最初の協力医からは、相手方病院に過誤があったとの意見を得ることができませんでした。
担当弁護士は、最初の協力医の意見で諦めることなく、次の協力医を探して、その意見を求めました。その結果、2番目の協力医からは、手術1で右神経孔静脈叢からの出血があり、止血が不十分だったため、硬膜外血腫が形成されて脊髄を圧迫して四肢麻痺を生じた、その後、硬膜外血腫除去術による血腫の除去がなされたが、再度血腫が貯留したという、当初の担当弁護士の想定とは異なる経過であるとの意見を得ることができました。
2番目の協力医の意見を受けて、担当弁護士は相手方医療機関の診療の問題点を再検討し、@手術1中の出血、止血不十分、A手術1で止血不十分のため硬膜外血腫が形成されたと想定されるにもかかわらず、手術2で血腫の再貯留があったことから、手術2でも十分な止血が行われていなかったと推定されるという2つの問題点があると考えました。そして、裁判例調査を実施したところ、@については立証が困難で責任追及が難しいため、本件ではAの問題点について過失として構成して、損害賠償請求すべきとの結論に達しました。
そこで、担当弁護士は、本件における相手方病院の過失を、手術2に際し、手術1後の出血源に対し改めて止血処置を十分に行い、かつ止血を確認すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠ったことと構成し、相手方病院に対して、損害賠償の支払いを求める示談交渉をすることとしました。
相手方病院は交渉の過程でさまざまな資料を求めてきましたが、これに適切に対応し続けたところ、後遺障害が残存したことの重大性を踏まえ、5000万円での示談を提案してきたため、当所としてもこれを受け入れることとしました。
1番目の協力医から相手方病院の過失を肯定する意見が得られなかったにもかかわらず、諦めずに2番目の協力医の意見を求め、その意見をもとに裁判例調査を行って、最も立証可能な過失を構成し示談交渉を行ったところ、5000万円という高額の示談を成立させることができました。