整形外科手術(人工骨置換術)後の致死性肺血栓塞栓症による死亡について、訴訟提起後第1回口頭弁論前に3000万円の示談(裁判外和解)が成立した事例

事案の概要

 

患者さん(80代・女性)は、自宅で転倒して頭部と大腿部を強打し、相手方医療機関に救急搬送され、レントゲン検査の結果、大腿骨頸部骨折と診断されました。肺炎を併発していたため、患者さんは、相手方病院に入院して、肺炎治療の後に人工骨頭置換術を受けることとなりました。

 

入院中、患者さんに対して行われた検査では、血液検査の結果でD-Dimerの値が高値であり、さらに下肢エコーの結果で左の浅大腿静脈に血栓を疑う所見が認められました。また、入院中、患者さんには血痰や胸部痛の症状が認められました。しかし、相手方医療機関は、造影CTを行うことや、下大静脈フィルターの留置を行うことなく、人工骨置換術を施行しました。その結果、患者さんは手術中に急変し、手術の翌日、致死性肺塞栓血栓症のため死亡しました。

 

弁護士の方針・対応

 

本件では、相手方医療機関で電子カルテが導入されておらず、カルテの改ざんなどが懸念されたことから、まず担当弁護士は証拠保全を行って相手方医療機関のカルテを確保しました。
相手方医療機関は、本件について院内事故調査委員会を発足し、医療事故調査報告書を作成していました。カルテを入手した上で、医療事故調査報告書を精査すると、術前の血栓を評価するために重要な下肢エコーの結果について、医療事故調査報告書の記載と読影レポートの記載が異なっていることが判明しました。

 

事案を精査すると、患者さんが致死性肺血栓塞栓症により死亡していること、また、入院中の下肢エコーの結果で左の浅大腿静脈に血栓を疑う所見が認められていることなどから、患者さんが死亡に至る機序として下肢の静脈で形成された血栓が飛んで肺動脈を閉塞したという機序が疑われました。そこで、この機序を前提に、担当弁護士は、相手方医療機関には、@肺血栓塞栓症の事前予防が不十分であった、A造影CTなどの必要な術前検査がなされていなかった、B手術中の急変時の対応が不適切であった、という過失があるのではないかと考え、協力医に意見を求めました。

 

その結果、協力医は、@については、患者さんの肺塞栓症のリスクは最高リスクと評価できるものであり、かつ、術前から下肢に血栓を疑う所見があることから、「肺血栓塞栓症及び深部徐脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン2009年改訂版」の推奨予防法である弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫法、抗凝固療法に加え、さらに下大静脈フィルターの留置を検討すべきであったとの新たな見解を示しました。また、Aについては、術前に患者さんに胸部症状があったことを重視して造影CTの必要があったとの見解でしたが、Bについては不適切ではあったとはいえないとの見解でした。

 

これらの調査結果から、担当弁護士は、相手方医療機関の過失を、1.術前の造影CT検査を怠った注意義務違反、2.下大静脈フィルターを留置すべき義務違反と構成し、さらに、医療事故調査報告書と読影レポートの記載が異なっていることも指摘して、訴訟を提起しました。
訴状を受け取った相手方医療機関は、代理人を通じて、相手方有責を前提にした示談を申し入れてきました。担当弁護士は、相手方有責が前提であること、早期解決のメリットがあることから、これを受け入れる方針とし、最終的には第1回口頭弁論期日前に3000万円で示談(裁判外和解)が成立しました。

 

結果

 

カルテを丁寧に検討して、重要な点に関して相手方医療機関の報告書とカルテの記載の違いを発見・指摘し、また、協力医の意見を受けて過失を適切に構成して訴訟を提起した結果、訴状を検討した相手方が有責を認めて示談が進み、第1回口頭弁論期日前という早期に、相手方有責を前提とした3000万円で示談を成立させることができました。

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