抗凝固療薬(DOAC(リバーロキサバン))を常用する心房細動患者が、定期健康診断を契機に発見された大腸ポリープを摘除することとなり、循環器科医の意見に基づきEMR実施の1週間前から休薬したうえで同手術に臨んだところ、切除自体は成功したものの、数時間後に脳梗塞を発症し死亡した事案です。
患者が死に至った一連の経過に関して、医学的見地および法的見地から調査を行いました。その結果、相手方医師は、塞栓症発生の危険性に鑑みてリバーロキサバンの休薬期間を24〜48時間とするべきであるとの意見を供する注意義務を負っており、仮に、相手方医師が同義務を履行していたとすれば、患者が脳梗塞により死亡することはなかったと判断しました。これにより、不法行為または診療契約の債務不履行を理由として、相手方らへ訴訟提起を行いました。
訴訟の中では、注意義務違反、因果関係、損害の3点が争われ、尋問や鑑定が実施されました。
本件ではカンファレンス鑑定が行われ、医師の鑑定人が3名選ばれました。しかし、鑑定の結果は、3名とも病院側に過失なしという鑑定意見がでました。通常なら、鑑定人が3人とも同意見で消極意見であればあきらめてしまうところですが、そこから、再度資料や医療文献を読み込み、鑑定人の意見内容に対し、詳細な反論を行いました。その結果、過失に関しては当方の意見が採用され、鑑定意見と異なる判決を得ることができました。(990万円)
本訴訟では、医師が判断する有責・無責の判断と法的な有責・無責の判断が異なることが如実にわかる事案だと考えられます。
なお、この事案の裁判例(東京地裁令和元年9月12日判決)は、当弁護士法人所属の金ア浩之弁護士が、「医療判例解説2020年4月号」(医事法令社)で詳しく解説しているので、興味がある方はそちらを参照してください。