絞扼性イレウスに対する開腹手術の遅れで敗血症を発症させ患者を死亡させたことについて、4000万円の訴訟上の和解が成立した事例

事案の概要

 

患者さん(60代、男性)は急激な腹痛を訴え、大規模病院で診察を受けました。主治医は、当初から絞扼性イレウスを疑いましたが、なかなか確定診断ができず、最終的に開腹手術に踏み切ったところ、絞扼性イレウスだと分かったのです。

 

絞扼は解除されたところ、既に腸管が一部壊死していたため、それを切除しましたが、その時点ですでに敗血症に進展しており、数日後に敗血症性ショックで患者さんは死亡しました。本件では、絞扼性イレウスが疑われたにもかかわらず、造影CTは実施されていませんでした。また、敗血症のSIRS基準も満たし、臨床所見から死亡原因は、bacterial translocationによる敗血症である可能性が高いと思われました。

 

Bacterial translocationとは、腸管の壊死により、そこから腸内細菌が腸の外に出てしまい、最終的に血流を通して敗血症に進展するという病態を指しています。
この事案では、病理解剖は実施されておりませんが、絞扼性イレウスの患者さんが死亡する場合、虚血による腸管壊死→bacterial translocation→敗血症という機序で死亡するという転帰をたどることは、医学的に確立された知見ですので、本事案の患者さんもこのような機序で死亡したものと考えて間違いないと考えられます。

 

弁護士の方針・対応

 

消化器専門の協力医に相談したところ、協力医の意見では、絞扼性イレウスを疑った時点で造影CTを実施していれば、もっと早期に開腹手術を実施できたということで、医師に過失があるということでした。この事例では、主治医は、すでに初診の段階で絞扼性イレウスを疑っていたわけですから、この時点で造影CTを実施すべきであったことになります。

 

また、死亡との間の因果関係についても、一般的に絞扼性イレウスの場合、適切な時期に診断・治療が行われれば、救命率も高い疾患と言えるので、因果関係が肯定される可能性も高いと考えられました。絞扼性イレウスは、機械的イレウスの一種で、絞扼により腸管の虚血が生じているだけですから、直ちに開腹し、腸管が壊死する前に絞扼を解除してやれば、それだけでほぼ確実に救命できる疾患なのです。

 

また、この事例の協力医は、意見書の作成に同意してくれただけではなく、必要であれば、法廷で証言してもよいと言っていただけました。協力医を引き受けてくれる医師の多くは、同業者からの風当たりも気にされており、助言はできても意見書までは書けないという方が多いというのが現状です。また、意見書を書くことに同意されていても、法廷で証言することまではできないという協力医も大勢おられます。この事例の協力医は、法廷での証言も引き受けてくれたので、自信をもって提訴に踏み切れました。

 

結果

 

この事件では、協力医の意見書が決定的な意味を持ちました。被告病院は造影CTまで施行する義務はないとして過失を争ってきましたが、協力医によれば、他の所見から確定診断がつかなければ造影CTを実施するのは医師として当然のことなのです。

 

前述したように、絞扼性イレウスは、早期に開腹手術がなされれば救命率の高い疾患であると同時に、治療開始が遅れると死亡率も極めて高い疾患なのです。緊急性が高い急性腹症なのですから、他の所見で診断できないのであれば、造影CTを行わない合理的理由はありません。要するに、造影CTを撮ることは、医療水準であるということになります。

 

この事案では、協力医が法廷での証言を確約してくれており、敗訴リスクが低いと考えられました。また、協力医に対する証人尋問を予定していることを裁判所と被告病院にも伝えてありましたので、被告病院の弁護士さんも勝ち目はないと思っていたようです。

 

原告側の請求に対して、被告病院から和解額の減額を求められることもなく、こちらの請求金額をほぼ認める形で、4000万円で訴訟上の和解が成立しました。結局、法廷での証言を確約してくれた協力医の証人尋問も実施せずに、事件を終結することができました。

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