法曹人口の増加と医療事件

私が司法試験に合格した平成5年(1993年)当時、司法試験の年間合格者数は約700人で、競争率は約3%でした。 ところが、新聞などでご存じの方も多いと思いますが、法曹人口(特に弁護士人口)が他の先進国に比べて少なすぎ、国民のニーズに応えられていないということで、司法制度改革が始まり、5年前から新しい司法試験が開始されました。現在、毎年2000人以上が合格し、競争率は約20%となりました。 その結果、弁護士の急増と競争の激化、弁護士の質の低下などが指摘されるようになりました。

 

そして、弁護士の質がどこまで低下したのかはちょっと分かりませんが、すくなくとも競争激化を裏付ける現象はすでに現れており、例えば、債務整理、離婚、交通事故などの分野では法律相談料を無料とする事務所が増え、なかには裁判の着手金までも無料化する事務所まであります。要するに、どこの弁護士もお客さん集めに奔走しているわけですが、この着手金ゼロというのは、私が弁護士になったばかりの頃ではあり得ませんでした。 もっとも、私は着手金の無料化は医療事件の分野では無縁だと思っていました。

 

着手金ゼロというのは、これも常識から考えると非現実的です。医療訴訟に限らず、一般的に言って裁判というものは、勝ち筋の裁判でも負けることはあり、また、負け筋でも予想外に勝ってしまうことも珍しくはありません。

 

ましてや、医療裁判となるとその専門性の高さから、勝敗の予測は困難を極めます。しかも、さらに悪いことに医療裁判は長期化しやすいことでも有名です。大都市を中心に裁判所に医療集中部という専門部署ができて、審理が一昔前よりは早くなっている傾向はあるものの、裁判が2年を越える事件はざらにあります。こうなると、着手金ゼロでやっている以上、弁護士にとっては死んでも負けられない。死んでも負けられないからといって、一生懸命やれば勝てるなどという甘いものではなく、勝てない裁判はどんな敏腕弁護士でも勝てないわけです。

 

こうなると、医療事件で着手金を無料化することは、いかに競争激化の時代とはいえ、弁護士の経営基盤を揺るがす事態に展開してしまうので、さすがに医療事件には波及しないだろうと思っていました。
ところがです。最近インターネットを見ていると、着手金をゼロ(無料)にする弁護士も出てきました。

 


 

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